“FORGETTABLE TRIP” – 思い出に残る旅 – ニューカレドニア

プロウィンドサーファーの鈴木文子です。
私が今まで遠征を含め「思い出に残る旅は?」と聞かれたら、2014年に初めて訪れたニューカレドニアです。

2014年、PWAワールドカップの最終戦がニューカレドニアに決定し、毎日出発までの日をとても楽しみにしていたのを覚えています。
2014年からワールドツアーの開催がニューカレドニアで続き、2014年に訪れてからは色々な縁があり、ニューカレドニアへは毎年通うようになりました。

私がニューカレドニアを選んだ理由は、日本ではなかなか経験出来ないウィンドサーフィンの楽しみ方を教えてもらったからです。
今までにもたくさんの国を訪れましたが、ほとんどが大会に出場するためだけで、大会が終わればすぐに帰国というパターンで、その国を楽しむ余裕はほとんどありませんでした。
でも、この時のニューカレドニアでは大会の主催者の方達が、空港への道具の運搬、航空会社への手配など面倒な手配を全てサポートして頂いたお陰で、私達選手は時間や気持ちに余裕が出来ました。
そこで経験した私の思い出に残る旅「ニューカレドニア」をご紹介したいと思います。

ニューカレドニアで初めて海をみたときの感動は今でも忘れられません。
日本からニューカレドニアまでは直行便で約8時間ほど。到着が夜の11時頃となるため、そこから車で1時間ほど移動し、ホテルに到着するのは夜中になります。
到着した時は外は真っ暗のため、そのまま就寝しました。

そして次の日の朝・・・ホテルのカーテンを開けると目の前は今まで見たことのない綺麗なラグーンが広がっていました。
遠くに見える島々の周りはリーフで囲まれているため、水深が浅いところと深いところの青と白とのグラデーションが本当に美しかったです。
後から知ったのですが、ニューカレドニアは、世界遺産にも認定されるほどの世界最大面積のラグーンなんだそうです。

今まで行ったことのあるハワイやサイパンの南国の雰囲気とは全く違い、フランス領ということもあって、言葉も食べるものも初めてのものばかりでとても新鮮に感じました。
もちろん、言葉はフランス語。
食事などはフランス料理が中心というよりは、ニューカレドニアは複雑な歴史があることから、フランス、先住民のカナック、そしてベトナムや中国など、様々な文化が混ざっていて、アジア系の料理も多く、いろんな組み合わせがあって食べ物には飽きることがありませんでした。
この時は11月に行ったので、日本はそろそろ冬の準備に入る頃に、南半球のニューカレドニアはこれから夏に入るという初夏。暑すぎずちょうど良い気候でした。

さて、やはりニューカレドニアで欠かせないのは、ウィンドサーフィン。
世界中から「アリゼ」と呼ばれる風を求めて集まってくるほどウィンドサーフィンのメッカということで、ニューカレドニアでウィンドサーフィンはとても人気のあるスポーツでした。
1年中アリゼが風が吹くこの島は、ウィンドサーフィンがこの国の文化の一部になっているほど生活に当たり前のスポーツとなっていることに驚きました
ウィンドサーフィンだけではなく、世界の最新のマリンスポーツの情報がここへくれば分かると言われるほどです。
私には新しいことだらけで毎日楽しくて仕方なかったです。

そして、今ではすっかり当たり前の「フォイル(ヨットやウィンドサーフィンなど水中翼で浮かせて走るもの)」ですが、まだ日本では見たことがなかったので、初めて見たのもこの時でした。まだフォイルを知らなかった私はその時フォイルをしていたひとを「変な人が海の上を飛んだいる・・・」と思ったのでした・・・。
それから私はこのフォイルに今ではすっかりはまっています。今ではウィンドサーフィンも全てフォイルが中心となるほどこの時から大きく変わりました。

そんな最高の環境の中で開催されたワールドカップは盛り上がらない訳がありません。
大会期間中は毎日最高の風が吹き、日本ではなかなか経験出来ない強風の中でたくさんのレースを行い、私は7位に入賞することが出来ました。
開会式はニューカレドニアで伝統的な歓迎を意味する踊りから始まり、最終日の閉会式も大勢の観客が集まり盛り上がりました。

大会後は、大会側で帰国まで間ウィンドサーフィンが出来るようにと、道具の出し入れがしやすいようにしてくれたお陰で、地元のウィンドサーファーの皆さんに幻の島ゴエロンへ連れて行ってもらいました
島から島へのアイランドホッピング&幻の島ゴエロンへのウィンドサーフィントリップをした事。これがウィンドサーフィンをしてきて、一番感動した出来事でした。

この地元のメンバーに入れてもらえたのも、ニューカレドニア在住30年の日本人の晴美さんのお陰です。
晴美さんはPWAワールドカップの開催が決まった際に、日本人選手の通訳のボランティアスタッフとして参加していて知り合いました。
晴美さんも毎日風があればウィンドサーフィンをするウィンドサーファーです。
今までに日本人がニューカレドニアにウィンドサーフィンをしに来るひとがあまりいなかったらしく、晴美さんは今回の大会に日本人選手が多く来ることを知りとても楽しみにしていたそうです。

晴美さんに「ゴエロンはどこにあるの?」と聞いても、晴美さんも「どこにあるか分からない。」と。
さらに「どの方向にあるかいつも分からないけど、いつも着いて行くと突然島が現れるの!!」と晴美さん。
でも、海の真ん中に突然島が見えてきて、先頭を走る人に着いて行けばいつか着くよ、というかなりアバウトな説明でした。
日本人だとどれくらいの時間がかかるのか、何時ころに帰ってこれるのか、など明確に知りたくなりましたが、なんとなーく行けばわかるよという緩い雰囲気にやや不安を感じながらも着いて行くことになりました。

まずは出発準備。
先頭を走るおじさん(かなりお年でしたが。)が、バックパックにウィンドサーフィンボードに必要なフィンとドライバーを入れていました。
なぜそんなものをもっていくの?と聞くと、ニューカレドニアらしい答えが返ってきました。
「途中、亀がたくさん泳いでいるから、亀を轢いてしまうとフィンが壊れてしまうから、そうなった場合に海の上でもフィンの交換が出来るようにするんだよ。」と。
大海原でトラブルがあった場合はその場で応急処置。日本では安全第一だから、そんなところにわざわざ行かなそうなので、それを聞いて余計にこのおじさんから離れては行けない・・・と心に誓いました。

さて、目的地ゴエロン島まで行くのに全部で10名ほど。
島へ行くには潮の満ち引きが大事なため、満潮時間に合わせて出発となりました。
アンスバタビーチからまずはイロ・カナール島を目指し、そこからイロ・メートル島で全員集合。
ここまでは島が見えるので問題ありませんが、イロ・メートル島から沖は目標物なしの大海原です。
先頭を走るおじさんを抜かさないようにコントロールしながらひたすら走り続けました。
風は15メートルくらい吹いていて、沖へ出ると海面も大荒れ。これがまた大変。
私を含め、日本のプロ選手男2名、女2名で行きましたが、私達でもこんな荒れた海面をレスキューボートなしにウィンドサーフィンをするのは初めてです。
私はこんな中トラブルあったらどうしよう、亀にぶつかったらみんなに置いていかれるのかも・・・とかなりネガティブなことばかり考えながら必死で着いて行きました。
行きは日本人選手全員楽しむ余裕もありませんでしたが、時々みんなでまだ行くの??と声を掛け合いながら、おじさんはどんどん進みます。どこにあるのか、あとどれくらい時間がかかるのか、体力は持つのか??など、走りながら慣れない強風海面にどこまでも続く先の見えない大海原にかなりビビりながら・・・。

と走り続けること20ー30分くらい(すごく長く感じたけど、もしかしたら15分くらいだったのかな。)
突然海の上に木がポツリ。
そして、突然小さな島が出てきました。それまでは全く見えなかったのに・・・。
ついに幻の島ゴエロンが見えてきました。
島の場所がわかるとおじさんを抜いて島へ一直線!!
近づくと海のど真ん中に本当に小さな白い砂浜が。
上陸すると50メートルくらいの小さな砂山でした。

上陸した時の感動は今でも忘れられません。
それまでは強風大荒れだった場所なのに、ここに上陸するとすごく静かに感じました。
行きは海しか見えなかったけど、来た航路を振り向くと・・・イロメートルが遠くに見えました。
本当に小さな砂山だけの島なので、上陸して島を少し歩いて、またすぐに出発しました。

帰りは戻る場所が分かっているので、気持ちに余裕がありました。それでも油断すると吹っ飛びそうな海面で、かなり力は入ってましたけど・・・。
帰りもイロメートル島で集合。
イロメートル島からゴエロンを見ると、もうどこにあるか全く分かりませんでした。
そこからまたアンスバタビーチを目指し、亀にぶつかることもなくみんな無事に帰着。


浜に到着すると、なんとも言えない達成感。
今までウィンドサーフィンをしていて色々経験して来ましたが、この時は浜に着くと涙が出てくるほど感動しました。

これも後から知りましたが、海外ではロングディスタンスというその名の通り長い距離を走るレースが世界各地で開催されていて、こういった長距離を走るのはヨーロッパではとても人気だということも知りました。
そして、2019年にニューカレドニアを訪れた際には、観光地で一番人気の「アメデ灯台」からのロングディスタンスにも挑戦したりと、これをきっかけに私もロングディスタンスレースに挑戦しています。

この2年ほどコロナの影響で毎年行っていたニューカレドニアトレーニングも行けませんが、また日本からの直行便が再開されたらすぐにここに戻りたいと思います。
国内でも今年になって大会がようやく再開されました。
またニューカレドニアでワールドカップが開催されるのを楽しみに今年の冬も日本でトレーニングに励みたいと思います。

それでは、ウィンドサーファー鈴木文子の「思い出に残る旅」を最後まで読んで頂きありがとうございました!

鈴木文子